「白蠟少年」(横溝正史)

横溝の大好きな「美少年」の登場ですが…

「白蠟少年」(横溝正史)
(「仮面劇場」)角川文庫

深川の掘り割りの水面に浮かんだ、
一見心中死体に見える
一組の男女。
女は12時間ほど前に
毒殺された形跡があるが、
男は約一週間前に死亡し、
数時間前、心臓に短刀を
刺されたのだという。
三津木俊助は奇妙な死体の
謎を追う…。

筋書きには盛り込みませんでしたが、
女は年増で醜女、男は美少年、
まったく釣り合いは
とれていないのです。
横溝の大好きな「美少年」の登場ですが、
本作品ではすでに死体となっていて、
活躍の場はありません(が、
実は死体になってからも動いて
親類の面前に現れるのですが)。

本作品の読みどころ①
死体をめぐる犯罪

美少年は死後、
火葬に付されたはずなのに、盗まれた上、
幽霊のように家族のもとに現れ、
その後川に流されるという
経緯をたどります。
単純な殺人事件ではなく、
その死体をなぜそのように
しなければならないかというところに
秘密があるのです。

本作品の読みどころ②
誰が犯人?誰が悪?

読み進めていくと、一体誰が犯人か、
それ以上に誰が悪人か
よくわからなくなります。
そこが面白さです。
善と悪が二転三転する展開が
読みどころです。

本作品の読みどころ③
男女二人の関係と死因

男女がなぜ時間差で殺されながら、
紐で繋がれ心中死体のようにして
発見されたのか、
その謎解きが本作品の肝でしょう。

本作品の読みどころ④
引き立て役にまわる等々力警部

長編では多くの場合、
名探偵・由利麟太郎と
三津木俊助のコンビが
活躍しているのですが、
短篇作品では三津木単独ものが
いくつかあります。
そのときの相棒は警視庁・等々力警部。
ところがこの等々力警部は
ワトソン役どころか
ただの引き立て役のことが多いのです。
本作品でも張り込みの最中に
大きなクシャミをして
容疑者に逃走を許すという
コントのような失態を犯しています。
もっとも、それは
スリリングな水上追跡に
持ち込むための作者の設定なのですが、
それにしても…という気が
しないでもありません。
まあ、一介の新聞記者に過ぎない
三津木の推理を、
警視庁警部の等々力が
足を引っ張るという、
およそ現実離れした
キャラクター設定が面白いのですが。

昭和13年発表の本作品、
現代のミステリーと比較すると
緩い部分があるのは
致し方ありませんが、
横溝らしい何とも言えない
味わいがあります。

※本書はもちろん絶版ですが、
 最近出版された単行本
 「由利・三津木探偵小説集成3」
 (柏書房)に収録されています。

(2018.10.14)

Donna KirbyによるPixabayからの画像

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